小説から少し離れて、年末年始にかけて読んでいた論考を3つ。

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大井浩一 『メディアは知識人をどう使ったか―戦後「論壇」の出発』 勁草書房、2004年

事業仕分けがマスコミにも大きく取り上げられた2009年。賛否両論あったわけですが、個人的には、「仕分け人の選別」と「報道のされ方」という2点に興味を持ちました。ということで、タイトルに惹かれて購入したのがこの本。実際のこの本の流れとしては、副題のとおり戦後論壇がどのような展開を見せたかという点について、記者である著者が分析を加えていくというもの。無論、社会の変化の中では、この本は一事例研究に過ぎないのかも知れないけれど、「分かっていたつもりが改めて文章にされると…」という部分が多く、なかなか興味深かったです。

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岡本太郎 『沖縄文化論―忘れられた日本』 中公文庫、1996年

下の本とともに大学でお世話になっている先生から勧められた一冊。太陽の塔の製作者でもある岡本太郎さんですが、著書は結構あるのです。しかもそれぞれ読み応えのあるもの(例えば「今日の芸術」など)。

沖縄の文化を通じて、今日の日本の文化の源流を探っていくといった類の内容なのですが、そこかしこに岡本太郎さんの芸術観が出ていて、魅力的なものでした。おそらく不可解な力によって秩序立てられた芸術、というのは彼のもっとも嫌うようなもので(堕落した、と述べられたいましたが)、幾つかは果たしてそうなのだろうかとも思ったり。ただし、「日本とは何か」をひたすら求め続けるその姿勢は、語弊を恐れず言えば、読んでいて心地よいものでした。

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柳宗悦 『工藝文化』 岩波文庫、2008年(第9刷)

日本民藝館の館長も務めた柳宗悦さんの工藝と芸術ないし工藝における美についての論考。歴史的な美術と工藝の変遷をひも解いた後に、今日の工藝の社会的な地位について批判的に述べ、その真の価値とは何かという部分にまで話の範囲を広げていきます。

あくまで日本を主眼としてこの本は述べていますが、実用藝術としての工藝―ということで、自分の中にはずっと自分の楽器があり、一つひとつの話をそれに当てはめながら読みました。巻末の挿絵小註には16点の工藝品が写真つきで掲載されており、どれもその美しさ(この本の定義によります。)にはハッとします。文化論全体にも刺激を与える一冊でした。